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ただ一言で「女性でも男性でもない」と言っても、好きな人を前にした時僕の心は大きく振れる。
「守りたい」「幸せにしたい」と思う気持ちは男性的なものなのだろうか?
彼女の全てを自分のものにしたかった。
二人で全てを分かち合いたかった。
男とか女とか、関係なく自分の持つ全てで彼女を愛した。
彼女の持つ全てで彼女に愛された。
毎日が必死で、毎日が充実していて、毎日満たされて幸せだった。
けれど…、性別の何たるかに気付かされる時は来る。
世界中で一番大好きな人の子供の頃からの夢。
「21で結婚して、22で母親になりたい」
大好きだったから、本当に愛していたから、目を瞑る事が出来なかった。
戸籍上女性である僕には、彼女と結婚する事は出来ない。
肉体が女性である僕には彼女を母親にする能力もない。
自分が男性として産まれなかった事を、あれほど恨んだ日々はなかった。
幸せにして上げたかった。一生守りたかった。
だから、僕は彼女と別れる道を選んだ。
17で始まった恋が、18で終わった。
悲しかった。悔しかった。辛かった。
それから三年後。
彼女は華燭の典を迎えた。さらに一年後母親になった。
「21で結婚して、22で母親になる」
彼女は夢を現実にした。
彼女が結婚したその日、僕の心は引き裂かれる様な痛みを感じた。
2日で10キロも体重が落ちる程に、激しい痛みだった。
何も考えられなかった。何かを誓った記憶もない。でも、この日僕の心にはブレーキが付いたのだと、今なら解る。
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