初恋

2/2
前へ
/80ページ
次へ
ただ一言で「女性でも男性でもない」と言っても、好きな人を前にした時僕の心は大きく振れる。 「守りたい」「幸せにしたい」と思う気持ちは男性的なものなのだろうか? 彼女の全てを自分のものにしたかった。 二人で全てを分かち合いたかった。 男とか女とか、関係なく自分の持つ全てで彼女を愛した。 彼女の持つ全てで彼女に愛された。 毎日が必死で、毎日が充実していて、毎日満たされて幸せだった。 けれど…、性別の何たるかに気付かされる時は来る。 世界中で一番大好きな人の子供の頃からの夢。 「21で結婚して、22で母親になりたい」 大好きだったから、本当に愛していたから、目を瞑る事が出来なかった。 戸籍上女性である僕には、彼女と結婚する事は出来ない。 肉体が女性である僕には彼女を母親にする能力もない。 自分が男性として産まれなかった事を、あれほど恨んだ日々はなかった。 幸せにして上げたかった。一生守りたかった。 だから、僕は彼女と別れる道を選んだ。 17で始まった恋が、18で終わった。 悲しかった。悔しかった。辛かった。 それから三年後。 彼女は華燭の典を迎えた。さらに一年後母親になった。 「21で結婚して、22で母親になる」 彼女は夢を現実にした。 彼女が結婚したその日、僕の心は引き裂かれる様な痛みを感じた。 2日で10キロも体重が落ちる程に、激しい痛みだった。 何も考えられなかった。何かを誓った記憶もない。でも、この日僕の心にはブレーキが付いたのだと、今なら解る。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加