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血飛沫が夜空に舞った。
鍬原勇太は目の前で
何が起こったか
全く理解出来ていなかった。
勇太は面白半分で
夜の学校に忍び込み、
嫌いな教師の私物に
悪戯でもしてやるつもりで
学校に来たのだが、
普段見慣れた奴が何者からか
逃げているのを見て
追って来たところ…
「何が起こったんだ…」
勇太はこの現場に
遭遇してしまった。
コツ…コツ…
何者かが勇太に近付いてくる。
(…!!)
勇太は草むらに隠れて
息を殺した。
コツ…コツ…コッ……
足音が勇太のすぐ近くで止まる。
(気づかれた…!?)
……クスッ…コツ…コツ…コツ…
(行ったか…)
草むらから出て周囲を伺う。
(何か最後笑ったような…
……! そうだ!!)
思い出したように
勇太はさっきまで人影が二つ
あったところをみる。
「凌太!」
凌太を見つけ、
勇太はそこまで走る。
「…!クァハァラァ…?」
凌太は地面に倒れていた。
勇太は言葉を失った。
彼が見た凌太には
"下半身"という物が無かった。
「アァ…ダイヅォウブダオ。
ボクァ、"フヅウノニンゲェン"トア
チガッヅェスゴシィジォウブダカラァ…」
「大丈夫な訳ないだろ!!
とにかく喋るな!!!」
勇太の声が暗闇に
包まれた街に響き渡る。
それを聞いたのか、
近くの民家に明かりが点る。
「…オィ…ミヅェミロヨォ…
ゴンヤハヅキガァキレイラナァ…」
凌太がそう言うので
勇太は空を見上げる。
「えっ…月ってお前…
…! お前喋るなって!!」
「イインダオ…
モォスヌンダス…」
「あっ?…滑舌悪くて
聞き取れねーよ」
「…スネ!…トヌガクニゲロォ!
ヒトガギダラメンヅォダァ…」
明かりの点った民家から
人らしき影が出てくる。
「でも…」
「ダイズォウブダカラァ!!
イッツァダロウォ?
ボクァ"フヅウノォニンゲン"トァ
ツガッテズゴシジョオブゥダツテ」
「それって滑舌悪いって意味で
普通じゃないって…」
「ハック!」
「じゃあ、どうゆう…」
「ハヤクゥ!!!」
「くそ…!」
『おおーい!
そこに誰かいるのかー?』
遠くから住民らしい人が
こちらに向かって叫んでいる。
「じゃあ明日!
必ず学校来い!!」
「…ヴン…ワァカァッタァ。
ズァア"マツァアスタ"」
「…また明日!」
そう言って勇太は
暗闇の中へ走っていった。
しばらくすると、
住人らしき人がだんだん
こちらに向かってきているのか
足音が聞こえる。
(見つかると面倒だ…
もうこの世に未練はない)
「タツォエ…ドウテイダトシテモ
ボクァユウタァノァコトガァ…」
力尽きたのか、
凌太は動かなくなった。
表情は満面の笑みを浮かべている。
次の瞬間、
そこにあったはずの遺体は
跡形もなく消えていた。
今夜は新月だった。
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