28人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
――ミグ城。
俺は何人もの兵士とすれ違いながら、息を切らして長い階段を駆け上がる。
普段なら薄暗く静けさ漂うこの場所も、今宵ばかりはその限りではない。
灯された松明かりが一瞬姿を消すほどの風が行き交っている。
申し遅れたが俺の名は、ミグ国の軍隊長……ルシアン。
屈強な兵士たちを我流の剣術で率いている。
我流と言っても、魔力ではなく闘気を扱う俺の剣術は、今や我がミグ国の軍隊で用いられるまでになった。
よくわからないって?仕方がない。説明してやるよ。
魔力ってのは呪文を使うために必要な力のだ。読んで字の如く、魔族の魔力は半端じゃない。
つまり、人間は魔族に魔力では敵わない。だから俺は闘気っていう別の力を鍛えたってわけだ。
ちなみに、呪文は呪文で防ぐことができるが、闘気は呪文では防げない。どうだ、闘気の素晴らしさがわかっただろ?
――俺は部屋にたどり着くと、重厚な扉を力任せに開き、長身を生かしてすぐさまミズナを見つける。
「まだか、ミズナ!」
声を荒げた拍子に、俺の白金色の髪から汗が滴り落ちる。
「まだかかるわ、なんとか耐えて!」
ミズナが申し訳なさそうに答えた。
ミズナは黒髪で容姿端麗、そしてミグ国一の魔導師だ。俺たちは、一年前に夫婦の契りをかわしている。
今、妻のミズナは千人あまりの魔導師の中心に立ち、皆の魔力をその身に吸収している真っ最中だ。
――「くそっ、急いでくれ!!」
俺はそう言い放つと、今し方、駆け上がってきた薄暗い階段を風を切るように下って行く。
――迎撃部隊が魔族に突破された……すぐに来るぞ、この城にも。
俺は城門に着くと声を張り上げた。
「おい、伝令係はいるか!」
ざわつく兵士たちの視線が俺に向けられる。
「なんでありますか、ルシアン軍隊長!」
伝令係の兵士が、ガシャガシャと鎧を擦り鳴らして駆け寄ってきた。
「軍用鳩からの知らせだ。迎撃部隊がやられた。全員ただちに持ち場につかせるんだ」
「なっ、わ、わかりました! 失礼します!」
俺は、走り去る兵士を横目に気持ちを落ち着かせようと深く長い息を吐く。
……我がミグ国の迎撃部隊がやられるとはな……だが、この城だけは死守してやるぞ。なんとしてもな……。
最初のコメントを投稿しよう!