始まり

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始まり

 母と一緒に買い物した帰り道、車の中での会話からそれは始まった。  母は言葉を選びながら切り出した。  「あのさ…、富岡裕一君覚えている?」  「小学校の時に仲良かった?」  「そう。その裕一君とお母さんが大変な事になっちゃって…。」  「一体どうしたの?」  「裕一君、昨年結婚したんだけどさ、…お嫁さんが死産してね…。」  「どうして?」  何か嫌な予感がする、話の雲行きが怪しい。  「入り組んだ話なら後にして。運転中は危ないから。」  「それにしてもこの車、乗り心地悪いね。テンテン突き上げて。しかも椅子にスッポリ閉じ込められている感じがして、好きじゃ無いのよね。」  「スポーツカーなんだから、仕方ないだろう。」  この時の愛車はRXー7(FC GTリミテッドのしかもATの軟弱仕様)だった。    家で珈琲を飲みながら、経緯を母から聞いた。  富岡裕一は、昨年6月に恋愛結婚したそうである。  裕一夫婦は、そのまま母親宅に同居した。  そして一年後の7月中旬のある朝、事件は起きた。  縁側で雨戸を開けていた嫁さんを喜代美おばさんが突き落としたそうである。  原因は喜代美おばさんが嫁さんを呼んだのに、返事をすぐにしなかったからという理由だった。  「それで死産?…。」  深く溜め息をついて、僕は母を見た。  「そう。裕一君は7月の下旬にはお嫁さんを連れて家を出て行ったそうなんだけど、5日前に裕一君から喜代美さんのところに電話があって、『親子の縁を切る』って…。」  「返事をしなかったからって、普通嫁さんを突き飛ばすかい?、そりゃおばさんが全面的に悪いよ。」  苦虫を噛み潰した表情で母を見た。  「そうなんだけどね…。実はお嫁さん、『真光』の信者なんだって。」  伏せ目がちになる母。  「関係無いだろう!?おばさんがやったのは犯罪行為だよ!?」  呆れながら我が母親を見た。  「まさか、この僕に仲裁しろと?」  「いや、そこまで言って無いわよ。…でもね…。」  それっきり母は押し黙った。  実は僕も母とつい2ヶ月前まで一年以上に渡って、親子の間が断絶していた。  理由は僕の結婚を巡って。  24歳の時に在日の女の子を好きになり、親ばかりか互いの親戚まで出てきて別れさせられたからだ。  特に相手の親は、地元にパチンコ店やボーリング場を手広く経営している資産家で、彼女は一人娘だった。  相手からは資産目当てに見えたらしい。
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