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裕一の気持ち
あれから僕の方も仕事が忙しく、なかなか連休が取れずに実家に帰る事が出来なかった。
結局裕一と会ったのは、年が明けた1月下旬であった。
前もって裕一に電話をし、地元の居酒屋で待ち合わせした。
久々に会う裕一はとても嬉しそうに、「何年ぶりだよ!?」と笑顔で強く手を握りしめてきた。
僕も懐かしくなり、裕一の笑顔を見ているうちに自然と喜代美おばさんとの話は切り出し難くなっていた。
ビールと焼鳥でまず乾杯すると、互いの近況を話した。
「お前、創価大学に進学したんだってな?」
「済まないが、おかげで創価学会が大っ嫌いになった。」
「あははは、気にすんなよ。今じゃ、俺も大嫌いさ。あんなの拝んだって不幸になるだけさ。疫病神と変わんねェーよ!」
吐き捨てるように裕一は言った。
『母ちゃん、やっぱ無理だわ。』、僕は内心呟いた。
しばらく飲み食いしながら、たわいのない話を裕一と続けた。
「ところで結婚祝、わざわざありがとうな。お前のお母さんから電話貰ったけど、仕事忙しかったんだって?」
多分僕の母が気を使って、代わりに裕一にお祝い金を出したのだろう。
丁度裕一の結婚式の時は親子断然の時期にあたり、母も僕の居場所を知らず、招待状を転送出来なかったくらいだ。
「悪いな、実は母と大喧嘩して、親子断絶していた。」
裕一は疑うような目付きで僕を見た。
あまりにもタイミングが良すぎると思ったのだろう。
僕は自分の事を話した。
それでも裕一は半信半疑状態だった。
「俺の話、何か聞いてる?」
「うちの母越しにだけどね。」
「…………。」
黙り込む裕一、僕の右肩を掴むと軽く揺さぶった。
裕一の声にならない気持ちが伝わってくる。
「…他人がとやかく口出し出来る問題じゃねーよ…。」
僕は呟いた。
暫く重い沈黙が辺りの空気を支配した。
「…あのさ、俺の嫁幸恵はいい娘なんだぜ。俺の知らないところで俺の母親に邪教の女と罵られ、暴力を奮われても、俺に何一つ言わず、ずっと我慢し続けたんだぜ。自分が我慢すれば全部が上手くいくってさ…。なのに俺は何一つ分かっちゃいなかったのさ!我慢して、我慢して、我慢して、挙げ句の果てに俺達の子供を殺されたんだ!!」
裕一は泣き始めた。
従業員の女の子が無言でタオルを持ってきて、一礼すると去っていった。
痛いくらいに僕の肩に裕一の力が加わる。
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