裕一の気持ち

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 この時、少々安易な思い付きだったが、妙の両親である創価幹部から喜代美おばさんを注意して貰い、なんとか仲直り出来ないかを考えていた。  同じ学会員からの注意なら、喜代美おばさんも反省するのではないか?、などと甘い考えを持っていた。    実家に着いたのは深夜1時30分過ぎ、母はまだ起きていて僕を待っていた。  「どうだった?」  首を横に振る僕。  「…お茶と珈琲、どっちがいい?」  「お茶で。」  電気ポットの再沸騰の音がやたら響く。  裕一との話を母にした。  「取り敢えずさ、妙のお母さんに話をしてみるよ。まだ学会幹部から注意された方が、喜代美おばさんも話を聞くと思うし。」  「…そうだけどね。裕一君…。」  母は言葉を濁した。  「裕一、何かやったの?」  「…うん…、喜代美さんの家から出る時に、ご本尊を破り捨てたって…。それで仏壇までひっくり返したそうよ。」  僕は顔をしかめた。  あの信心熱心な喜代美おばさんが、果たして裕一に何と言っただろうか?  「…で、喜代美おばさんは?」  「裕一君が家を出ていく時、丁度喜代美さんは出掛けていて家に居なかったっんだって。帰ってきて喜代美さん、びっくりしてしばらく立ちすくんでいたままだったそうよ。」  「そこまでいってるなら、もう無理じゃない?何でその話、もっと前に話してくれなかったの?」  「だって晶真が前来たの9月でしょう?」  母は指を折りながら記憶を辿っていた。  「私も確か10月末か、11月頭くらいに本田さんから聞いたのよね。アンタに電話した時に話そうとしたんだけど、ついついお歳暮の話に夢中になって、忘れちゃったのよね。」  湯飲みを置く音だけがヤケに響く。  『致命的だな…。』  もう既に行き着くところまで行き着いている。  何か出来るわけは無いし、逆にこれ以上何かしてはいけないだろう。  この時点で僕はすっかり諦めていた。  僕と裕一、26歳の冬。
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