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「バシンッ!」
激しい音がして、左の頬に痛みを感じた。
「妙ちゃんに謝りなさい!本当に情けない、アンタにガッカリしたよ。」
母は身体を震わせ、涙ぐみながら僕を叱った。
項垂れて居間に戻ると、蒼くなっている妙が待っていた。
妙もただならぬ雰囲気を感じ取り、僕の様子を見て察したようだった。
仕方なし感アリアリで妙に僕は謝った。
元々プライドが高く、他人に頭を下げるのが大嫌いな僕にとって、最高の屈辱だった。
妙の方がむしろ慌てていた。
「私の方こそ生意気言ってごめんなさい。」
妙はシクシク泣き出した。
まさかこんな事になるとは思っていなかったという。
その妙の様子を見て、僕はそんな自分が居たたまれなかった。
今度こそ本心から妙に頭を下げた。
しかも土下座で。
その出来事以来、妙は家にしょっちゅう来るようになった。
両親が学会活動で家にあまりおらず、ご飯は用意してあるものの、一人で食べるのが嫌だったのだろう。
その点僕の家は僕を除けば全員女、しかも二十歳前後の叔母が2人いる。
妙は叔母達と一緒に料理したり、お菓子作りしたり、買い物に出掛ける事が楽しかったのだろうと、今でも思う。
それは妙が高校に進学してからもしばらく続いた。
僕とは違う高校だったが、わりと近くにあり一緒に通学していた。
しかし2人の叔母が結婚し、妙も創価学会で高等部の役職に就いて時間が無くなった事もあり、あまり家には来なくなった。
妙の両親も「お世話になっているから」と言って、妙があまり来なくなってからも色々家に持ってきた。
ただ、創価関係の小冊子やら聖教新聞はありがた迷惑だった。
「本当に読む所がない新聞だね。社会面も無いし。せめてもの救いは、広告チラシが無いところだけだね。」
と、母はいつも苦笑していた。
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