オルカとマオナガ

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 「じゃあ行ってくるね。」  「本当に一人で大丈夫か?」  「楽器直してもらいに行くだけだよ? 大丈夫だよ! スナメリさんもいるし。」  うーん、心配だ。この前みたいな輩もいるし…。  でも、今日は俺も、約束があるしな~…。  「……気をつけて、行くんだぞ。」  「うん! 行ってきまーす!」  ニタリが行ったのは、都の外にある、人魚と人間が協力してやってる楽器屋だ。  音楽に関しては人魚の方が優れてるし、人魚の方が器用なのも 多いから、売ってる楽器は人間の社会じゃ高級品扱いのものばかりだ。無理して陸に上がる必要もないし、店員には知り合いの人魚もいるから、 まぁ問題ないとは思うがな…。  さあ、俺も早いとこ出発しなきゃ。約束の時間を過ぎてるし…。  「おーい、オルカ―!」  「おお、マオナガ! 今から行こうと思ってたんだ。」  「バカ、おせぇよ。あんまり遅いから、迎えに来てやったぜ。今日は、ニタリちゃんはいねぇのか?」  こいつは子供のころからの友人、マオナガ。今はハンドウっていう人魚の、一言で言えば人間否定派グループの一員だ。  「ああ、急用でな。で、今日は何の用だ?」  「泳ぎながら話すよ。」  いつもならイッカクといるのに、今日は一人でどうしたんだ?  「お前、漁師の人間と仲いいだろ?」  「ん? ああ、まあな。」  「最近さ、魚がなかなかうまく獲れないんだよ…。学習したのか、俺が歳なのか…。人間の漁師は泳げもしないのに、いろいろうまくやって大量に獲るだろ?   どうやってんのか教えてくれないかなー、と思ってさ。」  「あー、なるほどね。そりゃイッカクに聞かれたら、困るよな?」  あの男は人間否定派の中でも、とびきり頑固だからな。人間の方法聞くなんて、許さないだろう。  「え? あ、ああ。ははは…そうなんだよーあいつ頭かたいから…。それに泳ぎは早いし漁もうまいし、俺の悩みとは無縁だからなー。」  あ、でもいいやつなんだぜ? とか言い訳みたいなことを、ごちゃごちゃ言ってるのを無視して、俺は人間の漁についてしゃべり始めた。
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