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小倉で新幹線を降りるとそのまま在来線に乗り換える。
門司港駅に着いたのは3時前だった。
駅前でタクシーに乗り込むと、活気づく門司港レトロ周辺を尻目に小倉方面に折り返した。
右を向くと関門海峡が太陽の光を受けて輝いている。
あの頃の彼女のように。
そんな景色をボンヤリ眺めていると運転手が話かける。
「今年も、もうそんな季節になったかい」
「そう、・・・ですね・・・」
本当は返事もしたくない問いなのに、しかし彼にはそうもいくまい。
五年前、目を真っ赤に腫らしながら彼のタクシーに乗ったからだ。
タクシーはゆっくりと門司の住宅街の坂を登り始めた。
間もなく着く駐車場には1台のカローラが止まっていた。
「どうする?下で時間潰すかい?」
気をつかったのか、車の所有者が分かっているかのように運転手は聞いてくる。
「そのまま、行ってもらえますか」
今までの気の抜けたような表情から一変、引き締まった表情に変わった自分の様子を見て運転手は静かに頷き、
「いいんだね?」
と、念を押した。
タクシーはゆっくり駐車場に入っていった。
海は相変わらず輝いていた。
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