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「ガチャリ」
タクシーのドアが開くと重い体をのそりと下ろす。
10月の清々しい風が金木犀の香を運んでくる。
あの日、微かに漂った香も金木犀だった。
真っ直ぐに目的地に歩いていく。誰もいない静かな日曜日の静寂は、サンデーサイレンスとでも言おうか。
静かに歩いて行く。
先程の車の持ち主であろう男が、焦点の合わないような目でぼんやり眺めている背後に立った。
「カサカサ・・」
風に吹かれた花束のフィルムが音を立てたが、男は振り向きもしなかった。
ただ、一言呟いた。
「俺にここに来る資格はないのは分かってます。」
自分の目線は男の背後を通り過ぎ自分が持っていた白い百合の花束にいっていた。
男は続ける。
「毎年あなたに遅れをとってたので今年は早く来たつもりだったんだけどな。」
男は立ち上がり振り向いた。
その目は赤く腫れ上がり溢れんばかりの涙をためていた。
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