ACT-00 ~それは所謂プロローグ~

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夜の帳を降ろし、半月がほのかな明かりとなって輝く、夜のコト。 青年は、ワインディングを駆けて行くスポーツカーのナビシートに居た。 もっと詳しく言えば、俗に言う走り仕様なHCR32のナビシートに、だ。 「なんで突然、オレを呼び出したんすか?」 青年は頬杖をつきながらあからさまに不躾な口ぶりを見せる。 その表情からは、とても『楽しんでいる』ようには到底見えない。 「そりゃあ決まってンだろ?いつの間にやらクルマ冷めしちまった庸介を覚醒させに来たんだ」 と意気も揚々と語るのはHCR32のドライバーズシートでステアを握る、青年より少し大人びた男。 車内のそんな雰囲気とは対象的に、ウィンドウから見える暗がりの景色は一瞬で後方に飛んで行く。 コーナーを立ち上がった後のストレート、HCR32のスピードメーターは100km/h超を指している。 「昔みたいにクルマに対するテンションが上がんないんすよ。何でか解んないですケド」 庸介と呼ばれた青年はこの状況に全く怖がるコト無く、むしろ平然としている。普通は『ちょッ!危ないっすよマジで!!』とかって怖がるモノだが。 彼が平気で居られるのは慣れているから。 「ま、きっと今から目の前で起こるコトを間近で見れば、お前のその冷めた魂がきっと蘇るさ」 「はぁ…」 …………… ……… …… 「――な、なんだコレ…!す、すげー…!」 思わず感嘆の声が漏れたのは、頂上にある道の駅の駐車場で繰り広げられている光景を見てのモノだった。 そこに佇むほとんどのクルマは普段街中で溢れるミニバンや軽自動車とは一線を画していた。 低く下げられた車高。 空気を味方に付けるエアロパーツ。 快適さとは縁の遠そうなスパルタンなインテリア。 そのどれもが、見た目や見せかけ等では片付けられない『必要な装備』であるコトをひしひしと感じさせた。 しかしそんなクルマ達とは裏腹に、そのオーナー達の間に笑いは絶えない。 エンジンフードやドアを開け放ち様々な話に華を咲かせる。それは、共通の趣味を持つ者同士のある種当然の交流。 「どーだ?ちょっとはテンション上がったろ?」 HCR32の男はニヤニヤと笑いながら青年の肩を叩く。 まるでどんなリアクションを取るか初めから知っていたように。
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