運命の女神

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「『運命』に性別はあるかな」 俺がそいつに出会ったのは、幼稚園児2年目の春の事だった。 5歳、つまり今から……12年前か。 「あるとしたら……どちらだろう。君みたいな、男かな」 二人は同じ組になると、すぐに打ち解けた。 今になって考えてみると、原因は不明だ。 「それか、僕みたいな女かもね」 当時から、精神年齢に遥かな差があるからだ。 そいつの言っている事は、今も昔も理解出来ない事が多い。 「……わかんなーい」 当たり前である。 5歳児の小さい脳では理解不能だろう。 今の俺にだってよくわからない。 こんな哲学的な話を、12年前からしていたのである。 「『運命の女神』または『運命の神』……うん。『運命の女神』の方がしっくりくるね。じゃあ僕と同じだ」 そう言って、そいつは真夏のヒマワリのような笑顔をみせた。 「残念だったね朔馬君。『運命の女神』は僕に微笑んだようだ」 「うぁ、また負けた……。強いね、一妃ちゃん」 俺達が幼稚園児時代、よく興じていたのが、ルール覚えたての将棋だった。 勝手な駒を作っては、そいつに怒られていた記憶がある。 そいつの腕前は、かなりのものだった。 真っ当なルールの将棋で、俺はそいつに勝った事がない。 ただでさえ馬鹿なんだ、勝てるはずないよな。 「くくく」 そいつ独特の笑い声だ。これも成長しても変わる事はなかった。 「8連勝、決まったね」 「じゃ、もっかいしよ!」 よくこんな奴と渡り合えてたな、俺。偉いぜ。 「……いいよ。今度は君の王将以外を全て戴いてから勝利するとしよう」 ……言わずもがな、惨敗したのだった。
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