運命の女神

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さて。 思い出話に華を咲かせるのはここまでしようか。 月日は否が応でも過ぎ行き、可愛い幼稚園児だった俺も、可愛くない高校生に変貌し、当然そいつも同じように育った。 同じ小学校に行き、同じ中学校に通い、同じ高校を受験して、そしてお互い合格。 17年の人生のほとんどをそいつと過ごしている、と言っても過言ではなかろう。 所謂、幼なじみってやつだ。 せっかくなら、もっとわかりやすい奴とそうなりたかったぜ……。 「くしっ」 偶然道端で出会い、共に登校することになった『そいつ』は、小さくくしゃみをした。 「……どうやら風邪を引きかけているようだ。いや、誰かが僕に対して悪口を言っているのかもしれないな」 隣で赤い鼻を擦りながら歩いているのは、寺沢 一妃。 例の幼なじみである。 「迷信だろ、そんなもん」 一妃の溌剌とした声に、俺の陰欝な声が応える。 「迷信ねぇ……」 一妃は意固地な我が子を見る親のような目でこちらを見た。 「朔馬君。火の無い所に煙は立たないよ。昔、誰かがこの『悪口を言うとその相手がくしゃみをする理論』を立ち上げた。それでいいじゃないか。迷信という曖昧な言葉で片付けるべきではないよ。少なくとも僕は、この理論の立証者に賛同するね」 「そうかい……」 こいつと喋ってると、無性に脳が糖分を求める。 「ところで朔馬君」 白マフラーを北風にたなびかせて、一妃は俺を見た。 「寒くはないのかい?もう12月だというのに、あまりにも軽装すぎないか?」 一妃の言うように、今の俺は学校指定のブレザーをワイシャツの上に着ているのみで、襟巻き手袋耳当て等の防寒具を装着していなかった。 「案外なんともない」 むしろお前が重装備なだけじゃないのか? 一妃はブレザーの上に更に紺色コートまで着用していた。 「女の子は身体を冷やすといけないからね。くくく」 左手を口に当てて、一妃は目を細めた。 笑顔も昔から変わっていないな。
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