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速度を下げて歩くなり、その場で止まるなり、普段の彼女ならそれくらいの甲斐性はあるのだが、さすがに状況が状況なだけにそれは無理だった。
なぜなら、
「お待ちください、お嬢様!」
「こら、クソアマ! お嬢様を返せ!」
「お、お嬢様!」
といった声と共に六時の方角から人波を掻き分けて執事や運転手、それにメイドといった使用人の一個中隊が追いかけて来ているからだ。
「誰が“クソアマ”だって!?」
後ろから聞こえてきた声に、彼女はスカート下のホルスターから銃を抜くなり自分の“格好”を思い出した。
「ああ!! そうか、クソ!? この格好だって事を忘れていたぜ、くぅ~……この野郎!?」
彼女――山本聖司(やまもと せいじ)は、泣きそうな顔で八つ当たり気味にトリガー引いた。
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