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わたしの足は、ブーツに収まることなく跳ね返された。
「ねえ、どうして入らないの?」
尋ねると、梨本さんの助手のお手伝いさんが吹き出した。
「あら、わたしったら、もしかして間違った履き方だったかしら?」
わたしは焦った。
我が一族の恥となるような行動をしてしまったんじゃないかしら、と恐れた。
すると助手は笑いを堪えるような表情で、言った。
「お嬢様…入るわけありません!」
どういうこと?
「どういうこと?」
不思議に思ったわたしは、思ったことをそのまま口にした。
「奥様はあんなに細身でいらっしゃるから…」
途端にしどろもどろになった助手は、助けを求めるような顔で梨本さんを見た。
梨本さんは微笑んで、
「お嬢様のお好みのブーツ、ちゃんとオーダーして作っていただきましょうね」
その言葉に違和感をおぼえた。
どうしてわたしからこのブーツを遠ざけようとするの?
わたしよりお母様のほうが大切なの?
わたしが一番でしょう、わたしが、わたしが、わたしが!
気がつくとまた頭のてっぺんを掻きむしっていた。
右手を見ると、黒いかさぶたのようなものまでついていた。
部屋には誰もいない。
一人の世界で考える。
今日の出来事。
試験が終わった。
一人で電車に乗った。
育ちの悪い女性に出会った。
パイが美味しかった。
梨本さんには子供がいた。
そして…
わたしは気づいた。
皆がブーツを遠ざけたんじゃない。
わたしの体が太っているせいだ、ということに。
言葉を反芻する。
『デブ!』
『キモいオタクが』
『クリームのせて』
『デブは死ね』
『入りませんよ』
『デブ!』
『デブ!』
『デブ!』
『デブ!』
『デブ!』
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