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気付かぬふりをしてゆっくりと歩きつづけた。
揺れと戦いながらやっとの思いでギャルの隣までたどりついたとき、もう一度彼女に目をくれてやると、もう視線はわたしではなく小さな液晶画面にあった。
なんて長くてとがった爪。
ラプンツェルの絵本に出てくる魔女のイメージね。
キキーッ。
電車が停車した瞬間、車体が大きく揺れてわたしの鞄がギャルのブーツの先端に触れた。
「ごめんなさい」
いやだわ、余計なことを考えていたから。
得体の知れないひとに関わるといいことはない、気をつけなさい、といつもお家を出る前に注意されているのに。
ギャルの彼女は何の反応も示さない。
よかった。
わたしはほっと胸をなでおろし、たいそうな音を立てて開いた扉からふわりとプラットホームに降り立った。
電車を待っていた方々の列の中でひときわ目立つ、ずいぶんと小綺麗な身なりをしたご婦人が、わたしが歩く姿に目を奪われていらっしゃる。
もしかすると、卒業生の方かしら。
わたしはご婦人に微笑み、軽く会釈をしてさしあげた。
ご婦人は少しばかり驚いたような様子でわたしに微笑みかえした。
御機嫌よう。
わたしはそのまま背筋を伸ばし、優雅に人々の列を通り抜ける。
西口とはどちらかしら、と案内を見上げた瞬間、体に衝撃が走った。
重心を失ったわたしはよろめき、あろうことか尻餅をついた。
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