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僕が目覚めると、ベッドに橘がいなかった。僕は起き上がって、橘を探した。
橘はすぐに見付かった。ピアノの前に座って、鍵盤を見つめている。細く長い髪で顔は見えない。
僕は一瞬、橘に話しかける事ができなかった。橘は、ゆっくりと、鍵盤を叩いた。弱々しい音が鳴った。橘が、震えているように見えた。
「橘、どうした?」
橘は、急に話しかけられ驚いたようで、ビクリと振り向いた。
「……おはよう」
「ああ、おはよう。今日、コンサートの前に病院に行くけど、どうする?」
「着いていきたい」
「うん……じゃあ、用意しようか」
橘は僕の腕に寄りかかった。ふわりといい香りがした。僕はどきりとして橘を支えようと、てのひらで肩を抱いた。
「……あれ?橘、熱ないか?」
計ってみると、39度の熱が出ていた。僕は急いで橘を病院へ連れていった。
コンサートの時間が近付いてきた。橘は薬を飲んで落ち着いている。
どうするべきか……。
すると、橘が目覚めた。とろんとした眼で、僕を見た。
「片山さん行かないのー?」
「うーん。けど橘は行けないだろ?」
橘はこくりと頷いた。
「行かないで…ここに居て。」
橘が泣きそうな顔をして言うので、僕は橘を家に連れて帰った。
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