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「片山さん、この傷はふさがるのに時間かかるんだから、こんなことされちゃ困りますよ」
医者が僕にたらたらと説教をする。別に構わないじゃないか。これは僕の指なんだ。
「……用事があるんで帰ります。ありがとうございました」
僕は先生の話を中断して帰った。駐車場の車に、橘が待っていた。
「指、大丈夫だった?」
「ああ、怒られるだけだったかな」
「……怒るのも当たり前よ。心配させないで」
「……ごめん」
橘は車を走らせた。指がないだけで、出来ないことは、山ほどある。
例えば、指を怪我したときに、事あるごとに不便さを感じ、これほど指を使っていたのかと思うが、これが常だと、もどかしさが募っていく。
自分はもう、何も出来ない人間になってしまった。そんな風に思うようになってきた。
朝起きてから、夜眠るまで、僕は塞ぎこんだ気持ちにしかなれなかった。
そんな僕を、橘はずっと見守ってくれていた。
包帯を巻かれた手を見た。無機質で温かみをかんじなかった。
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