僕の指

2/3
前へ
/41ページ
次へ
      真っ暗なホールを、パッと照らすスポットライト。   そして蛍が放つ光のように、ピアノの音が辺りで鳴り響いた。           「片山先生、お疲れ様です!!今日も素晴らしい演奏でしたね!」   スタッフの女子が言う。   「ありがとう」   僕は笑ってみせた。   彼女の名は、橘。先日、好きだと言われたのだが、僕は断わった。   「あの…お食事はどうですか?」   僕は少し考えて、OKした。彼女のことは一度振ってしまったのだが、実は嫌いではない。むしろ試していたのだ。僕の返事を聞くと、彼女はとても喜んでいた。           「片山先生は、なぜピアニストになろうと思ったのですか?」   食事中に、そう聞かれた。僕は、流れだと答えた。   そしてそのまま二人でホテルに向かった。僕は流れに弱いらしい。       考えると、おかしな話だ。さっきまでピアノを弾いていて、人の心を奮わせた指が、今は女に触れている。誰が想像するだろうか。           次の日の朝、僕は橘の叫び声で目が覚めた。   「片山先生の…指が!!」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加