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真っ暗なホールを、パッと照らすスポットライト。
そして蛍が放つ光のように、ピアノの音が辺りで鳴り響いた。
「片山先生、お疲れ様です!!今日も素晴らしい演奏でしたね!」
スタッフの女子が言う。
「ありがとう」
僕は笑ってみせた。
彼女の名は、橘。先日、好きだと言われたのだが、僕は断わった。
「あの…お食事はどうですか?」
僕は少し考えて、OKした。彼女のことは一度振ってしまったのだが、実は嫌いではない。むしろ試していたのだ。僕の返事を聞くと、彼女はとても喜んでいた。
「片山先生は、なぜピアニストになろうと思ったのですか?」
食事中に、そう聞かれた。僕は、流れだと答えた。
そしてそのまま二人でホテルに向かった。僕は流れに弱いらしい。
考えると、おかしな話だ。さっきまでピアノを弾いていて、人の心を奮わせた指が、今は女に触れている。誰が想像するだろうか。
次の日の朝、僕は橘の叫び声で目が覚めた。
「片山先生の…指が!!」
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