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「指………?」
僕は自分の手を見た。
「!
指が………指がない!!」
僕の指は、付け根からスッパリと、切り取られていた。
橘が急いで救急車と警察を呼んでくれた。僕は命に別状はなかった。銀行や家など、全て指紋でロックを解除できるようにしていたから、心配はしたものの、何も盗まれてはなかった。
結局、どのように僕の指は盗まれたか、全くわからなかった。
なによりも大事なことは、僕にはもう………
ピアノが弾けなかった。
この事を週刊誌など、マスメディアが食い付いた。「悲劇のピアニスト」などと、あることないことを、書きたてていた。
「くそっ!!」
情報が氾濫して、犯人の情報がどれかわからないという。肝心なところがわからない。それどころか、橘とホテルにいたところだったから、女癖の悪さ故に……などと、勝手なことばかり書いてやがる。
指を盗まれる事件は最近多発しているのだ。それがたまたま僕という、ピアニストだっただけだ。名が売れているということは、こういう事でもあるのだ。
「来月……でかい仕事入ってたんだけど………ムリだな」
不意に涙がこぼれた。金など、どうでもいい。いくらでもくれてやる。なぜ、指だけ………。
犯人は、僕の全てを奪いやがった。
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