【第三幕】ツミビトの鎖

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そうだね…僕はあの時 君の言葉を遮ったんだったね… 隣で眠る君ではない人 寝息を少しだけ愛しく思って 額に手をあてる 動悸が酷い 熱があるようだ… あの日の夢をまだ見ている 口元まで出掛かった声を押し殺したあの日 「俺…ルドルフに行こうと思ってるんだ…。」 君は何かを訴えかけるような眼をしていた わかっていた 君の感情も、その意味も、そして次の言葉も… だからこそ僕は遮った それを聞いてしまったらもう引き返せなくなる… 君が伸ばしかけた手を優しく払った 「そうかい…もっと上手くなれるといいね…。」 精一杯の笑顔 いや いつだって僕は笑ってきた 君が去っていこうとしている今 その瞬間さえ 僕は笑っている 「アニキ…。」 去っていく背中… きっとあの日の君には 僕の気持ちも否定の意味も わかっては貰えなかっただろう でも 散々悩んで 君のために吐き出した答えだったんだ… そのくせ毎晩夢に見るほど後悔している あのまま抱きしめれば 僕等は結ばれていたのかも知れない でも 「僕等は兄弟だから…」 自分で言って笑いそうになる 些細なこと 本当に些細なこと それだけなのに 執拗に重いその関係は、僕を縛り付ける鉄の鎖 君が出て行ってから 色々考えたけどね 無意味だった 君の事忘れようとして 手塚と関係を持った でも そんなもの 君への愛情に比べたら ただの誤魔化しにしか過ぎなかったのかも知れない 現に僕は君の事想っている… 「裕太…。」 本当に君が弟でなければ… 僕は鉄の鎖に縛られることなんてなかったのに 僕等はこんな決別を選ぶ必要なんてなかったのに … 「!?」 溜息を吐いた所で 何時の間に起きたのか 後ろから優しく抱き締められる 「不二…どうしたんだ?」 いつもの手塚の声 優しくて大きくて深い… 僕はその深い胸の中でゆっくり目を閉じた 重い鉄の鎖に縛られ 恋人の胸の中でまた違う人を想う 僕はツミビト… このままじゃ本当に君を愛する資格すら なくなってしまうかもしれないね… 押し殺したあの日の感情を 握り締めて 偽りの愛に溺れる 僕は縛られたツミビト 君に縛られた 壊れたツミビト… 【END】
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