第1章

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△▼△ 「はぁっ、はぁっ……」 風も熱気を帯びてきた、初夏の陽気。 僕はその風を外でなびく木々の揺れで感じながら、部室への道を走っていた。 早く部室にたどり着きたいのではなく、部室への道もまた、トレーニングの一環だという、先輩からの助言のせいだ。 1階から4階まで、階段を一気に駆け上がり、最も西側にある部屋へと急ぐ。 「よしっ、着いた」 僕は弾ませた息を必死で押さえ付けて、部室の扉を開いた。 「こんにちはっ、瑠音先輩っ!」 「遅いわよ」 間髪入れず聞こえてきたのは、この部の長、謠羽瑠音 (うたはね・るおん) 先輩の可愛くも厳しい声だった。 つやつやした長い黒髪に、黒くて大きな、意志の強い瞳。 抜群のスタイルと可愛さの先行する顔立ちで、この彩鏡学園(さいきょうがくえん)でも人気のある3年生だ。 部員は、僕と先輩の2人だけ。 最初は恥ずかしくって顔を見ることも出来なかったけど、今ではきちんと話も出来る。 「何してたのよ。こんな時間になるなんて、珍しいじゃない」 部室は南側の壁が、一面窓になっている。 広さは普通の教室の半分くらいで、中は長机と先輩専用席、そしてロッカー、備え付けの黒板があるだけで、他には何もない殺風景な部屋だ。 先輩は南に面した窓を背にして座っていて、逆光の先輩からはかなりの威圧感が放たれている。 「いや、あの……今日はホームルームが長引いちゃって……」 恐る恐る言うと、先輩は足を組んで腕を組み、ため息をついた。 「全く、いつも遅いのよ。早く部活を始めたいのに」 「うぅっ……」 か、返す言葉が見当たらない……どこに行ったのかな、僕のボキャブラリー。 「あの、だったら先に始めていても大丈夫ですよ? 瑠音先輩に迷惑はかけられませんし」 瑠音先輩は、今年で部活を引退する。 そろそろその時期も迫ってきており、最後の調整を始めているところなのだ。 すると、瑠音先輩は何故か少し慌てた様子で、そっぽを向いてしまった。 「礼がいないと練習相手がいないのよ。だから待ってあげてるんでしょ! さっさと準備しなさい!!」 「ひぃっ!」 男らしくない甲高い悲鳴を上げて、僕はそそくさと部活の準備に取り掛かった。 先輩の顔が赤く見えたけど……気のせいかなぁ。
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