第1章

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△▼△ 自己紹介がまだだったっけ。 僕の名前は羽瀬川礼 (はせがわ・れい)。 学園の1年生にして、『飛行部』唯一の平部員だ。 飛行部とは、個人飛翔用機械(Space Sonic)を用いて、1kmから5kmの短距離をいかに速く飛べるかを競う競技の部活だ。 それはいわば、空中のトラックアンドフィールド。 僕らはその大会で勝つために、日々練習を重ねている。 「今日はAコースを5周よ。目標は自己ベスト更新ね」 「え、Aコースですか……」 様々な形に入り組んだ校舎周りを、Aコースは最も複雑に飛ぶことになる。 隙間のような場所をすり抜けたり、人通りが多い場所を多く通る。 よ、よりによって1番危ないコースとは……。 「ほら、さっさと行くわよ」 僕と瑠音先輩は、中庭にいる。 ここから正面にある校舎の上を抜け、先にある渡り廊下の間をすり抜けなければならないので、ここがスタート地点なのだ。 ふわっ、と柔らかい風を起こし、先輩は軽やかに宙に浮く。 僕もブーツ型の《Space Sonic》のスイッチを入れて、先輩に並んだ。 「平均速度は100kmね。行くわよっ!」 そして、背後に凄まじい風圧を巻き起こし、先輩は一気に加速した。 ――……っていうか相変わらず速い!! 「うわ、ま、待ってください!!」 僕も数瞬遅れて、飛び出した。 「礼!! 背筋を伸ばして!! 体は小さく振りなさい!!」 「は、はい!!」 僕の《Space Sonic》はブーツ型。 足裏やふくらはぎから光を噴出させて、先を行く先輩を追う。 渡り廊下をすり抜けた時点で、速度はすでに100km超。 校舎の周りを飛行するには、あまりにも高速すぎる速度だ。 流れて行く景色の中、はっきりと見えているのは、先行する先輩の姿のみ。 「ん……」 その美しさに、僕は息を飲んでしまう。 瑠音先輩の背中から生えているのは、純白の光の翼。 天使の翼のような、白い大翼。 左右に全開すれば全長6mにも及ぶ巨大なそれは、先輩の背負うバックパック(Space Sonic)の出す光だ。 先輩が《Space Sonic》を操作する度、光の翼は羽ばたかれ、瑠音先輩の軽く小さい体を高速で前に飛ばす。
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