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一つの羽ばたきで、数十メートルもの距離を風のように翔ける瑠音先輩。
それはまるで、光そのものが空中を飛んでいるような、天使が実際に舞い降りたかのような――……。
――……あぁ、綺麗だな。
この学園の校舎は、継ぎ足しを繰り返しているため、複雑に入り組んでいる。
校舎から校舎へ向かうための渡り廊下や、校舎同士が立体交差のようになっている場所もある。
僕と先輩は、その隙間を縫うようにして高速で行く。
「次の立体交差、バレー部がいるから気をつけなさい!!」
「了解ですっ!!」
瑠音先輩がさらに速度を上げた。
凄まじい速度で急旋回を繰り返す先輩に、僕は必死で食らいついて行く。
いよいよ立体交差を、バレー部にぶつからないように高速で抜ける地点が来た。
と、僕が見えてきた立体交差を凝視していた、その時だった。
「ん――――?」
――……うわっ。
ばばばばばばん!!
がっしゃーん!!
ばんがんごんどっかん!!
「うわぁぁああっっ!!!!」
「なっ……れ、礼ッ!?」
最初のはガラスを破裂させた音。
次のはガラスに飛び込んだ音。
最後のは飛び込んだ教室の中身に衝突した音だった。
「あたたた……」
《Space Sonic》の操作を誤って、窓ガラスから教室に飛び込んでしまったようだ。
運のいいことに使っていない教室だったので、被害はガラスと机と僕の肋くらいだろう。
「うわ、動けない……」
教室に整列した机をぶちまけたことで、僕の体の上に机や椅子が折り重なるようにしてのしかかって来ていた。全く身動きが取れない。
所々が痛い。骨を折ってしまった……?
「うぅっ……!!」
「嘘――……礼ッ!!?」
と、瑠音先輩の声が窓側から聞こえてきた。
机と椅子の下敷きになっている僕を見つけられないのか、瑠音先輩はかなり必死な声と足音で近づいて来る。
僕は『大丈夫ですよ』と言おうとして、口を開こうとした。
と、その時だった。
「礼ッ……礼、礼ぃっ!!」
先輩は、必死な口調で僕の名前を叫びながら。
竜巻を巻き起こした。
「えっ!!?」
「礼!! 大丈夫っ!?」
痛みよりも、驚きが勝った。
僕が次に見た光景は、光の翼を全展開し、《Space Sonic》を使って机を自分の背後へ吹き飛ばした、瑠音先輩の泣きそうな表情だった。
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