159人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
何て、綺麗なんだろう。
泣きそうな表情の先輩。彼女が背負う光の大翼。
天使が僕を救うために舞い降りたかのような、そんな光景だった。
あまりの美しさに言葉を失っていると、先輩は膝をついて僕の体を揺らした。
「ちょっと、礼!! 起きなさいよ!!」
「あぅあぅ、だっ、大丈夫ですよっ!」
肋骨が痛いので、必死に無事を訴えると、先輩ははっとした顔で僕の顔を見た。
一瞬、安堵したように表情を緩め、しかしすぐに何かを我慢するような表情になったあと、
「ばかっ! 大丈夫ならさっさと起きなさいよ!!」
「いてっ……」
僕の顔に平手打ちを食らわせた。
痛みで朦朧としてきた意識を、必死でつなぎ止める。
「すいません、でした……」
「さ、さっさと練習戻るわよ。動けるんでしょ」
「すいません、ちょっと……休ませて、ください……」
どうやら、僕は先輩の引退試合には、一緒に出場することが出来ないみたいだ。
遠くからバタバタと足音が聞こえる。きっと先生などが駆け付けているのだろう。
その足音に安心しながら、僕は意識を手放した。
最後に見たのは、先輩が僕に何かを叫んでいる、瞬間だった。
最初のコメントを投稿しよう!