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「……全く、何て姿になってるのよ」
先輩は呆れたような、しかしどこか淋しそうな声で僕にそう言った。
僕は何も言えず、苦笑だけ落として部室の中に入った。
昨日の事故で僕は左腕の上腕を折り、3ヶ月は飛べなくなってしまった。
肋骨は無事だったようで、脇腹は打撲で済んだ。
しかし。
先輩の引退試合に、僕は出場することが出来なくなってしまった。
短距離走は個人競技なので、僕が出なくても先輩に迷惑はかからない。
だけど……大会で一緒に走れる、最後のチャンスだったのにな……。
「折っちゃったものは仕方ないでしょ? 折った足で試合に出られても迷惑なだけだわ」
瑠音先輩は顔を少し赤くして、口を尖らせながら小さく言葉をつぶやいた。
僕はいつもの席に座りながら問う。
「でも先輩、大丈夫ですか?」
すると、「何がよ?」と振り向いてくれた。
「レースで礼に心配されるようなことなんて、無いと思うけれど?」
ま、まぁ、確かにそうなんだけれど……。
先輩は県大会へのスーパーシードを持つほどの、ハイスピードスプリンターなんだから、僕なんかに心配されるような人じゃない。
だけど……。
僕は先輩の目を見て言った。
「1人で――……大丈夫ですか?」
言った瞬間、僕は殴られるかと思ったけれど――――
先輩は、
「――……ないわよ」
「へ?」
「大丈夫じゃ、ないわよ……っ」
顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
「かっ、勘違いしないでよね! 1人で淋しいんじゃないだから!!」
癇癪を起こしたように叫ぶ先輩だったが、その声は明らかに強がっていた。
ますます心配になって、僕は次の言葉を継ごうとする。
と、その時だった。
「失礼するよ」
『ッ!!』
部室に、僕と先輩以外の声が響いた。
2人同時に振り向くと、そこにはスーツ姿の中年男性の姿があった。
「真山先生……?」
僕は思わず、漏らしていた。
真山先生。
飛行部の顧問であり、瑠音先輩のクラス担任でもある世界史の教師だった。
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