緊急帝王切開

13/14
前へ
/174ページ
次へ
二人で微妙な空気が漂う中、医師の準備が終わるのを待っていると、 「な、鈴子」 「何?」 「あんな赤ちゃんの名前なんやけど‥‥」 赤ちゃんの名前‥あ!忘れてたあ!!名前を考える心の余裕なんか全然なかった私は、頭からその事がすっかり消えていた。 「鈴音ってどうかな?」   「鈴音‥鈴音ちゃん?なんで鈴音なの??」 「あ~う‥‥ん」 ちょっと照れたような顔で、歯切れが悪いように、ひろしはこう答え得た。 「鈴子と一緒に頑張ったやろ?お腹の子、でお前の名前を一字とって、一番響きが可愛い音の字を付けて鈴音【すずね】はどうかな?って思って‥」 私と一緒に頑張ったから‥ そこまでひろしが考えてくれているなんて思ってもみなかった。 感動して、思わずひろしの手を握ってしまう。 「鈴音ちゃん‥うん!可愛い名前やと思う」 その言葉にひろしは照れたように頭を掻く。 「おう!俺が考えたんやから、当たり前やろ」 「はいはい、ひろし君は天才やもんね」 「そう!俺天才」 「ハハ、あほやな~ほんまに」 二人の笑い声が陣痛室にこだまする。さきほどの微妙な空気もふっとんで穏やかな雰囲気に包まれた。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1214人が本棚に入れています
本棚に追加