1214人が本棚に入れています
本棚に追加
勢いよく扉が開く音がして、衣服が乱れ荒い呼吸を繰り返す担当医師がやって来た。
先生の顔を見たとたん、気が張った神経がぷっつりと切れ、目頭に熱い物がこみ上げて来る。
「先生‥‥」
「阪野さん、今すぐ赤ちゃん出すから、ご主人に連絡して、大丈夫!任せておいて」
そう一言残して、すぐに病室を後にする医師。
その言葉に、動揺する気持ちを抑え、すぐにお産キット(お産の為に必要な品々がすべてセットで入っている物)を手に取り、テレホンカードを持って、ナースステーションの真前にある公衆電話へと急ぐ。
一歩一歩、歩いてのにまるで足の感覚がない。
仄かに光る公衆電話にテレホンカードを入れ自宅に電話を架けるが、指が奮えて上手くボタンが押せず、ちっとも電話することが出来ない。
落ち着け‥私‥‥落ち着け
何度も切っては架け、切っては架けを繰り返し、いったん受話器を置いて、深呼吸をする。
ようやく自宅に電話がかかり、コール音が聞こえる。
「‥‥もしもし」
「もしもし、私!あんな今から赤ちゃん出すし、すぐに病院来て!!!!」
捲くし立てるように、ひろしに伝える。
焦って、動揺しているのがわかるのか、ひろしは一言わかったと言って電話を切った。
手か小刻みと奮え、心臓が強い鼓動を刻む。
お産キットを持った手をぎゅっと握り締め、陣痛室へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!