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周囲の人々の声。
鳴り響くクラクション。
アーケードのスピーカーから流れるクリスマスソング。
一瞬、そんな街の喧騒が全く聞こえなくなっていた。
(死んだのか? 俺は)
そう思った矢先、俺の聴覚がその機能をフルに発揮させて現実世界に舞い戻させる。
「夕菜っ!」
半狂乱で駆け寄る菜摘の声で我に返った俺は、自分の腕に抱かれてブルブル震える夕菜の存在を思い出した。
「だ、大丈夫か! おいっ!」
慌てて運転席から飛び出して来た運転手の技術に感謝しなければいけない。
何故なら急ブレーキをかけたトラックのバンパーから、俺の右足までの距離は数十センチほどしかなかったからだ。
「大丈夫か、夕菜! 怪我ないか!?」
必死の形相で覗き込む俺の目に映ったものは、愛しい我が子の泣き顔だった。
「パパァッ! 怖かった……怖かったよパパッ!」
「夕菜……良かった……」
俺のすぐ横まで駆けよった菜摘が、夕菜の元気な姿を見てほっとしたようにその場にへたり込む。
「ゴメンな、夕菜。パパが悪かった……悲しい思いさせてゴメン。一緒にいるから! パパ、いつも夕菜達と一緒にいるからな!」
俺の肩にもたれ掛かっている菜摘も、涙を流しながらその言葉を黙って聞いていた。
運転手に軽く説教された後、歩道に戻った俺達は長めのベンチに腰を下ろす。
「あ、雪……」
菜摘の呟きに漆黒の夜空を見上げると、一日早いホワイトクリスマスを彩る雪の結晶が視界に飛び込んできた。
「綺麗……」
笑顔で呟く夕菜の言う通り、街のイルミネーションに反射してキラキラと光り輝く雪の結晶は、幻想的な世界を作り出す。
そう。それは例えるならまるで……
「「宝石みたいだ」」
全く同時に同じ台詞を言い放った事で、思わずお互いに顔を見合わせる夕菜と俺。
次の瞬間、二人とも最高の笑顔へと変わって行く。
その様を見て微笑む菜摘。
もう二度と夕菜を悲しませるようなマネはしない。
俺はこの笑顔を手放さない。
大切な家族を二度と手放さない。
絶対に。
「夕菜……メリークリスマス」
目映いばかりの宝石達に囲まれて、小さな手を握ると暖かいモノが伝わってくる。
きっと、今の俺は自然に笑えているはずだ。
~fin~
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