ジュエリー・クリスマス

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  「どういう事だよっ! 菜摘!」 携帯で連絡を取り合い、合流した菜摘に開口一番、叫んだ。 「あの子、泣きながら寝たの……寝室に寝かせてしばらくしてから様子を見に行ったのよ! そしたら……どうしよう達也っ! 何処にもいないの! 公園にも。河原にも。あの子、こんな夜遅くに一人で……」 菜摘は自宅付近を探し回って来たらしく、半分パニック状態だった。 「とにかく落ち着け、菜摘! 何処か心当りないか? 夕菜の行きそうな所」 髪を振り乱して、今にも泣きそうな菜摘の肩をがっちり掴んで両眼を見据える。 まだ幾らか興奮してはいるものの、俺の目を見た菜摘は少し冷静さをとり戻した。 「もしかして……商店街。前に達也が連れて行くって約束したイルミネーション……クリスマスのイルミ!」 俺は、菜摘が言い終えるより早く商店街へと駆け出した。 夕菜。 無事でいてくれ! 夕菜。 俺は何て馬鹿だったんだろう。 夕菜はあんなに笑いかけてくれてたのに。 あんなに歩みよってくれてたのに。 菜摘の言う通りじゃないか。 自分だけが不幸だと思い込んで。 幼い夕菜を傷付けて。 挙げ句の果てに『家族と思えねぇ』だと? 自分勝手にも程がある。 記憶が戻らないなら……それなら、新しい思い出を作って行けばいいじゃないか。 もし、まだ家族でいられるなら。 俺の娘でいてくれるなら、今度こそ……。 頼む。神様でもイエス様でも何でもいいから。 夕菜が無事なら俺はどうなっても構わないから。 頭の中で自問自答しつつ、無我夢中で商店街へと辿り着いた俺は、人混みの中の幼い娘を必死に探す。 見つけた。 イルミネーションに見とれて、ちょこんと座る夕菜の姿を確認した俺は、思わず叫んでしまった。 「夕菜ぁっ!」 一瞬、辺りを見渡した夕菜は俺の姿を見つけると、いきなり俺の方へと駆け出してしまう。 大通りの反対側から……。 「ゆぅなぁっっ!」 けたたましくクラクションを鳴らし、猛烈な速度で夕菜に接近するトラック。 俺は……迷う事なくヘッドライトの光の渦へと飛び込んだ。  
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