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俺は今、自宅近くの公園を散歩している。
少し前を歩く妻子と一緒に。
良く晴れた青空は雲が流れて穏やかに見えるが、風は冷たく道行く人もブルゾンやコートに身を包み、すっかり冬の装いを感じさせる。
「パパ。良くあの滑り台で遊んだんだよ」
「へぇ、そう……なんだ」
不意に振り返って笑顔で言う娘に対して、どことなく他人行儀でぎこちない返事を返す。
「あそこのベンチでね、達也が私にプロポーズしてくれたのよ」
「そう……ですか」
妻に対しては更にその傾向が強い。
「やっぱり、何も思い出せない?」
「うん……ごめん」
気まずい雰囲気を振り払うようにフォローを入れる妻。
「い、いいのよ。焦らなくて。ゆっくり少しずつ思い出してくれたら……それに、お医者さんも言ってたでしょ? 何かの拍子に突然思い出すかも知れないって」
「あぁ、そうだね」
「元気出してよ。ね? パパ」
「あ……あぁ」
普通に微笑んだつもりが、つい、ぎこちない愛想笑いになってしまう。
自然に笑おうとすればするほど上手く笑えなくなる。
俺はこの子の前で、一体どんな笑顔を見せていたのだろう?
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