ジュエリー・クリスマス

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  都心から電車で一時間ほどの郊外にある三十五坪の建て売り住宅は、まだ畳やクロスの真新しい香りが漂い、家具やハイビジョンテレビなどもそれなりの物が一揃えされたマイホーム。 キッチンにいる妻と娘をボーッと眺めながら、ふうっと溜め息をつきソファーに腰を掛ける。 一ヶ月ほど前、俺は大きな交通事故に逢ってしまった…… らしい。 と、言うのも事故当時の記憶が全く無いのだ。 それどころか、それ以前の記憶、家族や友人の事など全く思い出せないでいる。 そう、事故による記憶障害。 いわゆる記憶喪失となってしまった訳だ。 妻を名乗る菜摘と、娘を名乗る夕菜の顔を初めて見たのは病院のベッドの上。 医師から病状を告げられた時の落胆した二人の顔は今も鮮明に脳裏に焼き付いている。 「今日は達也の好きなカレーよ」 「パパはカレー大好き、カレ男君だからね!」 うふふっと笑う菜摘と食器の配膳を手伝う夕菜の微笑ましい姿を見ても、正直、素直に笑えない自分に少しもどかしさを感じる。 菜摘も夕菜も俺に気を遣って、無理に明るく振る舞っているようにも見える。 俺の考え過ぎかも知れないが、一旦そう思い始めるとそんな風にしか見えないのだ。 「ごめん、菜摘。あんまり食欲ないんだ……ちょっと飲みに出掛けてくる」 「えっ!……そ、そうなの? ……分かった。それじゃ、夕菜と二人で先に寝てるから。気を付けて行ってきてね」 「あぁ」 複雑な表情の菜摘を、なるたけ見ないようにそそくさと着替えた俺は、逃げるようにして家を出た。  
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