ジュエリー・クリスマス

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  玄関先で夕菜が呟くのを背中で聞いた。 「ママ……パパ、前はこんな事なかったよね?」 胸の奥がズキンと痛む。 ごめんな……夕菜。 でも、駄目なんだよ。何か上手く言えないんだけど、息苦しくていられないんだ。 お前の顔を見て素直に笑えないんだよ。 やりきれない想いを胸に、家からそう遠くはない店舗ビルの地下一階にあるショットバーへ足を向ける。 「いらっしゃい……あぁ、達也か。今日も来たのか」 扉を開けると表の電飾看板と同じ『バビロン』というネオンが目に飛び込んできた。 この店とマスターの事は覚えている。 記憶喪失にも様々な症状があるが、大きく分けると二つ。 生まれてから今日までの出来事、自分の名前から成長過程まで全てを忘れてしまう『全健忘』 覚えているものと覚えていないものがある『部分健忘』 俺の場合、この後者にあたるそうだ。 実際、俺も自分の名前や社会的ルール、世間の情勢などは何となく把握していて、マスターやバビロンなどのように一部の人物や場所などはおぼろ気ながら覚えていた。  
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