ジュエリー・クリスマス

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  「……まだ全然思い出せないのか? 菜摘さんや夕菜ちゃんの事」 ロマンスグレーとまでは行かないが、ちらほらと白髪の混じった髪を後ろで一つに束ねたマスターが、カウンター越しに訪ねてきた。 「ええ……全く。何か自分で情けなくなっちゃいますよ」 「まったくだ。あれだけ大事にしてた家族の事忘れやがって、よりによってこんな冴えない親父覚えていなくたって良かっただろうによ? ショックだっただろうな……菜摘さん」 あまり感情を表にださなそうなマスターが、少し寂しげにワイルドターキーを差し出す。 「それも……まぁ、こう言っちゃ何ですけど、マスターやバビロンの事だって何となくしか覚えてませんでしたからねぇ。マスターとの会話で、思い出したというより『こうだったんだ!』という記憶を新しく刻み込んだって感じですよ」 ロックグラスの中でカランッと氷が弾ける。 「コイツにしたって、マスターに薦められて飲んだからしっくりくる味だって思いましたけどね、実際の所は『俺はこの酒が好きだったんだ!』って思い込むようにしてるのかも知れません」 事故以前に愛飲していたというワイルド・ターキー。 度数五十・五度という強い酒にも関わらず、エレガントな味わい……それでいて力強い男性的な印象を受ける、中々シャレたバーボンだ。 こんなシャレた酒を好んで飲んでいたかどうかは分からないが、一つ一つ自分を取り戻さなきゃいけない。 家族の為に。 そして、自分自身の為にも。 間接照明に染まった琥珀の液体をしばし眺めた後、俺は不安と憤りをかき消すようにしてターキーを喉に流し込んだ。  
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