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記憶の回復になんら進展も見られないまま二週間が過ぎた。
年の瀬の迫った時期らしく、世間はまさに『師も走る師走』といった感じで皆が慌ただしくしているのだが、会社の温情で年明けからの仕事復帰となる俺だけがゆったりとした時の流れの中にいるようだった。
相変わらず家族に溶け込む事が出来ず、徐々に苛立ちが募る自分がいた。
それ故に酒に逃げる回数も増えて行く。
「今日も行ってくるわ、バビロン」
「あぁ……気をつけてね」
もどかしいのは菜摘も同様らしく、お互いに気を使っているのが明白に感じられる。
だが、夕菜は違う。
理屈で理解出来るほどの年齢には達していない夕菜が、俺の行動に不満を抱かない訳がない。
気持ちをストレートに表現するから子供なのだし、当たり前の事なのだが、その時は、俺も精神的にかなり参っていた……。
「ねぇ! 今日は一緒にご飯食べてよ、パパッ!」
いつものように家を出ようとした俺に夕菜が抱きついてきた。
「あ……ゴメン、夕菜。今日はあまり食べたくないんだ」
顔も見ずに言う俺に対して今日は異常にしつこく食い下がる夕菜。
「今日はじゃないじゃん! いつもじゃん! 夕菜、そんなパパ嫌い……大っ嫌い!」
いつも以上のしつこさと、『大嫌い』というキーワードが俺の中の何かを弾けさせた。
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