例え世界が正しいとしても

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      たった一つ下の階の僕達のオフィスは、上の騒動など関係無いかの様な空気だ。職務領域が異なるとは言え、同じ会社内での事件を全く問題にしないと言うのはいかがなものなのだろう。 先程まで渦中にいた相模先輩までもが、何事も無かったかの様な顔で鼻歌を歌っている。でたらめなメロディは既存の歌を作り替えたもので、ギリギリ原形を保っている。聞き覚えはあったが、タイトルは思い出せなかった。 「ん?」 小さな疑問の声は、鼻歌を止めた相模先輩のものだった。自分のデスクの前に立ったまま、視線を机上に落としている。 普通なら軽く流して終わりだが、こんな風に怪訝そうな相模先輩の声は珍しいので、 「どうかしましたか?」 「・・・・・・なんだろ、これ」 相模先輩がデスクを指差す。 いや、デスクの上の何かを指差した。横に回り込んで、先輩の人差し指の延長線に視線を向ける。 そこにあったのは、 「・・・・・・手紙?」 「不幸の?」 「多分、違います」 「呪いの?」 「同じじゃないですかそれ」 僕は溜め息を吐き、机の上の薄いピンク色の封筒を手に取った。 色合いと封をしているシールの形と、何より相模先輩の机に置いてあったと言う事実が全て物語っている。 つまり、 「ラブレター・・・・・・か」 「解ってるんじゃないですか」 何やら神妙な面持ちで呟き、僕の手から封筒を受け取った相模先輩は、何度かピンクのそれを裏返したり透かしてみたり。 「何してるんです?」 「いや、危険な物が仕込まれてないかな、と」 「仕込まれた事があるんですか」 「そりゃ仕事の出来る男に嫉妬する輩は多い訳でね」 成程。 その人達は、先輩の本質を理解していなかったに違いない。
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