一休宗純とアリストテレス

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今僕は、机に積まれた書類の束をパソコンに集計し、まとめる作業をしている。先ほどの自己紹介で言った通りだ。平坦平凡、少々つまらないが義務である仕事。 (流石に朝からぶっ通しだと目が疲れるな・・・) 二十七枚目の明朝体の羅列を打ち込み終わって、顔をパソコンのディスプレイから遠ざけ、視界の僅かに揺らぐ両目を押さえる。 瞬間、右頬を掠めて何かが通過した。 それは真っ直ぐディスプレイに激突したらしく、どこか爽快にも聞こえる音に反射的に僕は体を仰け反らせた。目元を揉む手を離す。悲鳴を上げる余裕は、ちょっと無い。 投げ付けられたのは、グリップで留められた書類の束だった。キーボードの上に落ちたせいで、画面に意図せぬ文章が出来上がっている。 「あ、惜しい」 背後から聞き慣れた声がした。恐らく、投げ付けてきた張本人。 ・・・心無しか頭痛がしてきた。 いや、心無しか、じゃない。頭痛薬が必要な位の痛みだ。僕のストレスは胃ではなく、どうやら脳を焼いているらしい。 「あと数センチ横なら当たってたのに」 聞き慣れた声は言った。残念そうで、面白そうに。 「・・・仕事に一生懸命取り組む、真面目な後輩に何するんですか」 「仕事の合間の息抜きさ」 「今すぐ別の、平和的な息抜きの方法を考えてください・・・・・・相模先輩」 噂をすれば、という奴だ。彼――僕の背後に立ち、書類の束を投げ付けた――が僕の先輩で会社内でも名高い変人。 名を、相模善仁という。
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