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僕は椅子を回転させて、後ろに立つ危険な上司を見た。
今年で二十六歳の相模先輩は、ただ端から見ただけでは、それほど重症な変人には見えない。仕事はそつなくこなすし、人当たりもいい。不細工でもないし、おまけに背も高い。本人の知らない所で、女子社員にも色々と話題になっている。
ただ、行動はひたすら破戒的だ。予測が付かないから対応が追い付かない。
会議中に突然『昼飯買ってくる』と言い残して失踪、昼休みに立ち寄った営業部のパソコンをいじってデータ全滅、この間は印刷の遅いコピー機を蹴っ飛ばして弁償、と。とにかく破戒的(破壊的?)な行動で名が通っている。
この人が近づくと、僕にも大なり小なり被害が及ぶのだ。
悪態の一つでも吐きたくなる。吐きたくなった。よし吐こう。
「くそう、破戒僧め・・・」
「? 俺は仏教徒じゃないよ」
「あ、いえ、こっちの話で」
怪訝そうな相模先輩に、得意の愛想笑いを向けてうやむやにする。
そこで、ふと気づいた。
「・・・先輩、何ですかそのネクタイ」
「あ、これ?面白そうだから買ってみた」
「・・・・・・」
「ん、どしたん?」
無言で僕は相模先輩の首に巻かれた物を見る。
それは、ネクタイだ。ネクタイだと・・・思う。
目の奥に痛みを与えてくる強烈な地のピンクの上に、鮮やかな青のゴシック体がこれでもかと自己主張している。
でかでかと一文。
『見ろ!人がゴミのようだ』
一体いかなる意図を以てネクタイのデザイナーが日本一有名なアニメ監督の作品からこの台詞を定かではないが・・・・・・。
「・・・全然気付きませんでした。いつからこれを?」
「一昨日から」
「!? 昨日の会議には?!」
「普通にしてったけど・・・何さ」
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