一休宗純とアリストテレス

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相模先輩は有能だ。 僕を含めた常人が三日で終わらせる仕事を半日で仕上げる。仕事の質も相当なもので、先輩が提出した書類を突き返された所を見た事が無い。会議接待打ち合わせ、どれも不真面目な姿勢で取り組む場合が多いが、最後には良い意味で相手側にも顔と名前を覚えられる。 会議中に失踪しても企画はしっかり立ち上げるし、データを壊しても他のパソコンからデータを抽出して二時間で修復させ、コピー機を壊しても書類は期限通りに提出する。 どんなに馬鹿げた事をしでかしても、それをギリギリで帳消しにする位の技量を持ち合わせている、ある意味最強の万能の人だ。 ・・・・・・逆に言えば、それだけ成果を挙げているのにデタラメな行動のせいでプラスマイナスゼロ。いつになっても出世出来ていないのだが。 有能であり馬鹿げた上司殿は、何かを思い出した様に柏手を打った。 「あ、そーだ。吉野君、今日ヒマ?」 「男にナンパされる趣味はありません」 「ちょ、つれないね!そして誤解だ!今夜俺の家で飲み会するんだけど、吉野君も来ない?」 「・・・・・・他に誰か来るんですか?二人って事はありませんよね」 「うんにゃ。今夜は二人っきり――――って冗談だよ、睨むなこわい!・・・・・・えーと、うちの部署の佐久間と中菱、営業の川中君と鍵崎、だったかな。皆知ってる奴等でしょ?」 「解りました。皆が来るなら構いませんよ」 「・・・ん?アレ・・・?そんなに俺達打ち解けてなかったっけ?」 皆が、って事は俺だけじゃマジで断るって事でぶつぶつ・・・と、何事かを呟いてる相模先輩を無視、僕は再びパソコンに向き直った。無意識に鼻のティッシュを取る。 血は既に止まっていた。
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