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「遠山さん、お茶はまだか?」
「はい、ただ今…。」
閑静な住宅街に、松原企画はあった。
大理石が敷きつめられた床。
まばゆく光るシャンデリア。
西洋風の邸宅。
不景気の中、大会社の恩恵を受ける東之の特需会社…。
誇らしくそびえ立つ四階建てに、通る者は皆立ち止まった。
「うまい。遠山さんのいれるお茶はうまいな。」
社長、松原隆はそう言って、ごくりとお茶を飲みほした。
「さようでございますか。ありがとうございます。」
事務員の遠山桃子は、にっこりと微笑んだ。
「…で相沢さん、伝票のコピーはとれたのか?」
「はい。お願い致します。」
今度は、もう一人の事務員、相沢香織が呼ばれた。
香織は、てきぱきと伝票のコピーを揃えると、社長に渡した。
社長はコピーに目を通すと、開いている窓を、全部閉めた。
「寒いなあ。窓は開けないでくれ。」
そう言って、桃子達を一瞥した。
せっかく換気していたのに…。
桃子は、少しムッとして、軽くデスクを蹴った。
時計が正午を指すと、社長は、
「もう昼だな。あー、腹いっぱい食いたいもんだな。
体重が50キロだから、1500カロリーしか食べられないからなー。遠山さんも相沢さんも、ダイエットはしているのか?」
またはじまったとばかりに、桃子と香織は顔を見合わせた。
「ダイエットはしていませんよ。」
二人は答える。
「そうか。今朝なトイ…」
「すみません。社長。質問があるのですが。」
桃子が急いで話を遮る。
こうでもしなくては、社長の糖尿病の愚痴は、永遠と続くのだ。
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