第三章

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「そうか、これが怖かったのか。俺、乗馬が趣味で…それで。」 ――――鞭。 その姿にゾッとする。どれだけ打たれたのだろうか。どれだけの痣があるだろうか。それを考えるだけで死んでしまうくらいの痛みが全身を通りすぎる。 「これは、人間なんかに使うものなんかじゃない。無論お前にも使わない。約束するまででもないぜ?そんな事は」 そう言うと鞭を投げ捨てて、また抱き締められた。 「大丈夫だから。」 今日何度その言葉を聞いているのか。いくつも呟いて、そしてその度に頭を撫でられた。 「安心してくれ。」 安心?ねぇ安心ってなに?安心なんてまだ未知の感情。分からないから、この気持ちは安心なのだろうか。 何の反応も示さない代わりにどんどん抱き締める力が強くなる。その度に涙がこぼれ落ちた。 この涙は何だろう。先程までとは違う涙。恐怖なんてものが、どんどん遠くへ離れていく。 心音が穏やかで、だんだん体の力が抜けていく。体重を預けて、おずおずと彼の背中に手を回して――― 「俺が怖いのから、守ってやるよ。」 ―――嗚呼、なんて温かいのだろう。 ゆっくりと目蓋が閉じられた。  
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