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「…っ…さあ、お前、ずっとここに居るのも暇だろう。屋敷を見て回ろうか。此処の屋敷は無駄に広いからなぁ。」
苦笑しながら、差し延ばされる手。
触れていいものなのかと、躊躇する蒼の小さな手。
「行こう」
僅かな問いかけに絡め取られる細い腕。
力に体を任せ、ベットから伸び地面に触れる足の指先。
「……ぁ…ッ」
長らく使っていなかった蒼の足は、床に触れた途端に力なく崩れ落ちていった。
「…ぉッ…と…大丈夫か?ごめんな」
掬い上げられる体に、突然の浮遊感。
目の前にある柊弥の顔に、蒼はやっと自分が抱き上げられている事に気付いた。
「──ッ……」
柊弥の深い深い森の様な緑の瞳に映る自分の頬が、赤く染まる。
包容力のある身体と確かな温もり。嗚呼、今自分はこの綺麗で大らかな肢体に支えられているのだ。
そんな安心感の後の、圧倒的な羞恥心に圧され、また顔がさらに赤くなるが、抱き上げられているため、自分から柊弥を離れる事が出来ず、気持ちだけがただ混沌としていくのだった。
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