第六章

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先ほどから長い長い廊下を、蒼は柊弥に手を曳かれながら歩き続けていた。 「此処の屋敷の図書館はな、」 するとおもむろに柊弥が蒼に話しかける。 「書庫が肥大化して出来た。うちの家系は皆本が大好きなんだ。特に…」 饒舌に話していた柊弥の口が一瞬止まる。蒼は柊弥の顔を控えめに覗き込んだ。 「…特に俺の母は、とても本が好きだった。」 瞬間柊弥の顔が曇ったのを、蒼は見逃さなかった。 しかし、もう一度確認しようと蒼が見直した頃には、いつもの大らかな微笑みに戻っていた。 「俺だって、母に負けないくらい、…大好きさ。」 先ほどの曇りを隠すかの様に、柊弥は付け足した。 そのまま二人は無言だった。 蒼は彼に何か言いたかったが、なにを言っていいのか言葉が出てこない。  
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