琥珀色の瞳―序章―

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琥珀色をした瞳が、静かに閉じられた。 初雪が舞う二日前に、最愛の女性(ひと)がこの世を去った。 重い病気を患っていたために、そう長くは生きられないことは知っていた。 でも、その瞬間を目の当たりにすると、覚悟していても辛いものがあって、俺はひたすら、彼女の抜け殻に縋り付いて泣いた。 何が悲しくて何が悔しいのか………。 何も出来なかった自分への無力感でいっぱいだった。 彼女の葬式の日に、去年彼女と一緒に見た初雪が降った。 白く冷たい水の結晶。 あんなにもはしゃいでこの風景を見た日が、今はあんなにも遠い。 今日、彼女は灰になる。 冷たい棺に入れられて、業火に焼かれる。 元の姿さえ分からないほど燃えて、白い骨と灰になる。 彼女が生きてきた日々は過去になって、彼女の時間は永遠に止まった。 意味もなく、涙が溢れ出した。 とめどなく流れ落ちる雫が顔を覆う手を濡らした。 どれほどの間そうしていただろう。 気づけば、俺は彼女の体を抱えて走り出した。 葬式に来ていた人たちの悲鳴や怒涛の声が、ひどく遠くに聞こえた。
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