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その日は満月であった――
全ての温かさを失ったかのような……
凍える程に蒼白い月と
静かに燃える炎のように闇に浮かぶ紅葉だけが
そこに在った。
「闇羽(ヤミハ)、真白(マシロ)」
闇の中から水を打ったかのような静かで通る声が聞こえるのと、鳥の羽音が聞こえるのは
ほとんど同時であった
「首尾よくいったか」
水を打つような声の後に
「主(ヌシ)の予見のままにございました」
子供のような声が続いた。
「……そうか」
別段喜ぶでもなく悲しむでもなく主(ヌシ)は無感動に答えた。
「……ご苦労だった。
真白、明日からはこの名で呼べ
……【朔】」
「【朔】でございますか?」
真白と呼ばれた鴉が尋ね
「く……っ主らしい」
もう片割れの闇羽と呼ばれた鴉が笑った。
「今日は満月だからな。光に照らされた地を避け裏の闇を動く……。それが私だと思ったのだ。
私の生き方だと」
「……」
「……」
真白と呼ばれた鴉が黙り
闇羽と呼ばれた鴉が笑った。
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