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……またか。
このところ音に聞く噂話に耳を傾けながらも孝史(たかふみ)はうんざりしていた。
「だいたい鬼やら天狗やらを信じろと言われてもなぁ……」
このご時世、流行は妖し(アヤカシ)らしいが夜中の火事や天候の崩れまでソレのせいにするのは角違いというものだろう。神仏をも信じないというわけではないがアヤカシというものには信仰心を持ち合わせちゃいない。
現に近衛府(いわゆる都の警察)という役に就いている以上、不審な噂には耳を通すようにしてはいるのだが……。
「そなたは見ていないからそんな悠長なことが言えるのだ!昨夜黒い狩衣を着た鬼が私の館の門に……っ!!恐ろしや恐ろしや……」
白髪混じりの髪を振り乱し今にもぽっくり逝きそうな老人……もとい左大臣の話を聞いている限りではとてもじゃないが兵をあげるわけにはいかない。
「誰か訪問者だったのでは?」
ため息混じりに言いやる。鬼にされた者の方がたまったもんじゃない。
「あんな刻限に客人などありえんわ!」
「では左大臣兼勝(かねまさ)様は何ゆえそのような刻限に門の外を?」
「……う…」
どうせお忍びで女の所へでも通っていたのだろう。
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