蟲の報せ ムシノシラセ

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  「鬼騒動が噂される今、暗くなってからの外出は禁止とされているのをご存知ありませんでしたか?」   本当は仮にも左大臣にこのような無礼な物言いは許されないのでだろうが、孝史には特別にそれが許されていた。   もともと今上帝の第四子である孝史は次の月には他国の帝となる。 陸続きにあるこの国【沙霧】と隣国【紫翼】の養子縁組の犠牲となることが決まっているのだ。   紫翼は小国ではあるが玉(ギョク)の産地で、あまたの玉と引き替えに沙霧の援助を受けている。位は【近衛府】と低くとも他国に配される哀れな薄幸皇子として育った為か多少の我が儘がまかり通っているのだ。   「それに鬼や天狗の類いならば近衛でなく陰陽府を頼りにすべきでしょう?私に人外のことを相談されてもお役にはたてませんよ」   来月にはこの国を離れなければならないというのに……こう問題が山積みでは。   「そんな連れないことを言ってくれるな孝史。お前を頼みとする者も少なくなかろう?何とか頼む」   ……そうなのだ。この国の人々はことあるごとに自分を頼ってくる。どうせ去り行く者――と構わなければよいというのに困ったものだ。 これでは余計に出ていきづらいではないか……     .
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