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鬼騒動になりを潜めることなく養子縁組みの準備は華やかに進んでいった。
孝史の幼い頃から決まっていたとはいえここまで間近に迫ると悲しむ人別れを惜しむ人が相次いだ。
帝である父も何かと気を使って身の回りを整えようと心を配るが、孝史の方はギリギリまで近衛府に勤めるものとして自ら警護に出向く次第。
母親はというと養子縁組みが我が子に白羽の矢がたった当座に息子を見限り、孝史の存在を認めようともしなかった。
彼女の中でも何かが壊れたのだろう、と何でもないかのように苦笑する孝史の心は誰にも図ることができなかった。
「伊隆……この辺りか?」
「はい。確かに件の鬼騒動はこの辺りでピタリと止まっているようです。これより東では鬼の名すら出てはいないようですね」
都の東に位置する森……。
戦を避ける為敢えて切り開かなかった未開の地。
この先にも領土は広がっているものの、田畑を耕す者のみの地。あまり干渉がないのだ。大して深くない森ではあるが険しさのあまり誰もが大回りをして通る為道は定かではない。
「では鬼がいるとするならば……住処はここだな」
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