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「鬼や天狗などの妖しの類いは信じてないんじゃなかったですか?」
からかうような口調で顔色を伺うと、期待とは裏腹に真顔の孝史が見返していた。
「これだけ怪異があるということは何かしら原因があるはずだ」
「ではなぜ?左大臣には……」
「余計な心配をさせてどうなる?心配する役目は近衛府だけでじゅうぶんだ。……それに……妖しを信じてないのは事実だしな」
にっと笑ってみせた顔に、真剣な眼差しを見たような気がした。
≡≡≡≡
孝史が【勝手に】警護に行っている間に都では一騒動があった。
紫翼国の使者なるものが何の文もなしに訪れたのだ。自国の王となる孝史を試したいと申すも……肝心の孝史は行方が知れない。使者とは言え位でいうと宰相という。
いくら紫翼より大国だとはいえ女官だけに世話をさせるではあまりにも礼から外れている。それよりも女官が肝を冷やしたのは、使者自ら孝史を探しに行くというのだ。
「都の警護ということは行方は断定できないのですね?」
そう言うなり屋敷を後にした。
宰相は【弓将/ユミマサ】という名らしくかなり年は若い。年に似合わぬ白髪にキリリとした瞳が印象的な青年で、やはり国の違いからか着物の形も変わっている。そのどれもが彼の存在を際立てているように馴染んでいる。
供も連れずにまっすぐ歩を進めた先は……東。
まるで孝史の居場所を初めから知っていたかのように寸分違わず森に向かった。
「……間に合うだろうか」
独り言で呟いた言葉さえ感情が表れなかった。
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