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『…リア
マリア…俺の大切な娘』
…アベル?
『約束するよ…
心配するな。俺は大丈夫』
嘘つき…
『可愛い娘を独り残して
死んだりしない』
嘘つきのアベル…
だって…
アベル、あなたは
帰って来なかったじゃないか…
…また同じ夢
幾度と無く繰り返される記憶…
戦場に行くアベルを、何度見送っただろう
そして…
戻って来たアベルは、小さな小さな骨になっていた
ある晴れた日
私は、リージアンに手を引かれ、海の見える丘にのぼった。
生前アベルは、よく私を連れて来た。
『マリア…
もし、俺が死んだらこの丘から俺を撒いてくれ』
まだ、歳はも行かない娘に言う言葉じゃないだろ…
『…わかった。撒く』
今も昔も『子供らしさ』がない
『あははは…
それでこそ俺の娘だ』
アベルが笑う
大きな手で、私の髪をくしゃくしゃにしながら…
私は、アベルの笑顔が大好きだった。まるで、子供のようにくったくのない笑顔。
(子供の私より子供らしかった)
私は、リージアンの手を握ったまま、『アベル』を撒いた。ただ、淡々と丘の上から…
「アベル…これで満足か?」
すべてを終えて、茫然と立ち尽くす私の手に、リージアンは小さな包みを渡した。「あなたに渡すようにと、アベルから預かっていました」
中には、見覚えのあるペンダント。アベルがいつも肌身離さず掛けていた。
『それ』は、私が物心つく前に亡くなった母からのプレゼントだった。
「…うわぁぁぁ」
涙がこぼれた。リージアンから、アベルの『死』を伝えられた時も、動かなかった感情がいっきに溢れでてきた。
人前では決して、涙を見せたことのなかった私が、子供のように(子供なのだが)リージアンにしがみ付き、声を上げて泣いた。
『彼』はただ黙って、私を優しく抱き締めてくれていた。
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